コラム
「認知症の人による損害の賠償責任を家族がどこまで負うのか」について、今年の3月1日最高裁判決が出ました。
愛知県で2007年、認知症で徘徊していた当時91歳の男性(Aさん)が電車にはねられ死亡し、JR東海がAさんと同居し介護していた妻と離れて暮らしていた長男に損害賠償を求めていた事例です。
民法は「責任能力の無い人が第三者に損害を与えた場合、監督義務者が賠償責任を負う」と規定しており、1審では妻と長男の責任を認め、2審では妻のみ責任を認めていました。
妻は当時85歳で自身も要介護1、長男も同居していないという状態の中、日々の介護に疲れ夕方、うとうとしたほんの7分程度の隙にAさんは外出してしまったそうです。
最高裁は今回の事例では「家族に責任はない」と判断しました(骨子は下記①~③の通り)。
①認知症の人と同居する配偶者と言うだけでは監督義務を負わない。
②生活状況や介護の実態などを総合的に考慮し、監督可能と判断されれば賠償責任を負うことがある。
③今回の家族の場合は監督可能だったとはいえず賠償責任はない。
監督義務を負うかは「介護者の生活や心身の状況、同居の有無や日常的な接触の程度、介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ」としており、状況によっては、家族の監督責任を問われる可能性も出てくるかもしれません。
国は認知症の人を医療機関ではなく地域で見守る政策を進めており、在宅介護の比重が増す中、今後もこういった事件が度々発生するのではないか、その時にどういった判断が下されるのかが気になるところです。