コラム
相続手続きのご依頼をお受けする際に下記のようなご質問を度々お受けします。
「亡くなった母の口座から、お金を引き出しても大丈夫ですか?」
『名義人が死亡すると銀行口座が凍結される』と言われますが、市役所に死亡届を提出したタイミングで、自動的に凍結されるわけではありません。凍結されるのは、銀行が死亡の事実を知ったときです。ご遺族が銀行に「死亡しました」と伝えたり、新聞のお悔やみ欄を銀行が見て死亡を知ったといったことがない限り、キャッシュカードがあればお金を引き出すことは可能です。
冒頭の、ご質問について、結論から言いますと、「大丈夫ではありません」。
なぜなら、亡くなった方の銀行口座のお金は、亡くなった方の相続人全員のものですので、その中の一人が勝手に引き出したとなると、後々の争いの種になりかねないからです。
銀行も「争いに巻き込まれない」ために、死亡の事実が分かると直ぐに口座を凍結します。
「では、相続人全員が引き出すことに同意していれば、争うこともないし、死亡後引き出しても大丈夫」 と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。ただ、また別の観点で問題点があります。
それは、『相続放棄ができなくなる可能性がある』ということです。
例えば夫のA銀行口座に1,000万円あり、夫の死後も妻がそこから現金を引き出して自分の生活費に充てていたとします。夫の財産はA銀行口座の他には、自宅マンション(評価額約1,000万円)があるだけでした。ところが、その後、夫に3,000万円の借金があったことが判明します。
この様に、相続財産のプラスの財産よりマイナスの財産(負債)の方が多い場合、通常は、3か月以内に家庭裁判所で『相続放棄』の手続きをすることで負債から免れることができます。
ただ、この例の場合、妻は既に夫の財産(A銀行預金)を自身の為に使用しており、財産を相続することを認めていると考えられると『相続放棄』をすることができず、3,000万円の借金を背負わなければなりません。
あらゆる可能性を考慮して、やはり、亡くなられた方名義の口座から勝手に引き出すことはせず相続財産の調査をした上で、きちんとした相続手続きを経て引き出されることをお勧めします。