コラム
Aさんが「自分の死後、死ぬまで妻の面倒を見てくれる条件で、長男に全財産を譲る」という遺言書を作成したいと考えておられました。Aさんの子供は長男と長女のみです。
Aさんは長女に事前に気持ちを確認してみたところ、「その条件なら自分は財産はいらない」と了承してくれました。ただAさんはそれでも、自分の死後、本当に長男が面倒を見てくれるのか、また、長女が不満を抱くことはないか不安を感じてしまいます。このような内容の遺言書を作成して、果たして有効なのでしょうか?
結論としては
①上記の様に義務を負わせることを条件とした遺言書は「負担付遺贈」と呼ばれており法的に
有効です。
②ただ、長男が負担(死ぬまで妻の面倒を見る)をきちんと全うするかは結局、長男次第です。
上記内容の遺言書を作成した場合、Aさんの死後、財産は遺言書通りに長男に全て遺贈され
ます。そして、もし長男が実際には母の面倒を見なかった場合は、他の相続人(妻や長女)が
遺贈を取り消すことができます。
と、遺言者としては、なんとも不安の残る結論となります。
また、Aさんだけでなく、長男としても実際に「面倒をみている・みていない」の判断を何を持ってするのかがはっきりしていないと、不安でしょう。
「面倒を見てもらう妻」・「面倒を見る長男」・「見届ける長女」で「面倒をみる」の認識が異なった場合にトラブルになりかねないからです。
妻側が「死ぬまで在宅で、長男が世話をする」ということを期待していた場合、長男が色々と調べて安心できる良い老人施設を探し入居させたとしても「施設任せにして面倒を見ていないじゃないか!」と不満を感じるでしょう(実際は、施設対応窓口として長男が尽力していても)。
また、在宅で長男なりに一生懸命お世話をしていたとしても、長女から見て「お母さんはあまり良い物を食べさせてもらっていない。」「家に閉じ込められてかわいそう。」等とこれまた不満を感じるかもしれません。
ですので、もし、こういった遺言書を作成されるご予定なら、遺言書を作成する前に負担の内容
(死ぬまで妻の面倒をみる)について、妻・長男・長女を交えて話し合い、皆が納得し共通の認識を持つことができた上で、遺言書にもできる限り具体的に明確にその負担内容について記載しておく必要があるかと思います。
この様に、法的に有効な内容であっても、死後残された皆が、トラブルなく満足して円満に過ごすことができるよう、事前の配慮と対応がとても大切になります。